「聴くこと」から始まる愛

こんにちは。心の学校キャンパス スタッフ川村力雄です。今日も、来てくださって、ありがとうございます。最後まで、お付き合いください。

今回は、教育一筋に歩んできた金優子さんが、最愛の息子さんとの関係に悩み、「本当の愛とは何か」に気づかれた、深く心を揺さぶるご体験です。


価値観の違いを乗り越えて、心と心で向き合った2時間。それが、親子の関係を根底から変える転機となりました。

金優子さんは、長年教育の現場で「こうあるべき」という価値観を信じ、それを無意識のうちに息子さんにも求めていました。


「こうしなければならない」「これが正しい」と信じ、その枠の中で息子さんを導こうとしたのです。


一方の息子さんは、のびやかでマイペースな性格で、親の期待とは異なる感性を持っていました。自分らしく生きようとする息子さんに対し、金さん夫婦は「このままではいけない」と焦り、自分たちの価値観こそが正しいと信じ、息子さんをその枠に当てはめようとしていました。


「息子のため」と信じていたその思いは、知らず知らずのうちに、息子さんの心を締めつけていたのです。息子さんは、言葉にならない苦しみを抱えながらも、母の期待に応えようと懸命に生きていました。

けれどその努力が、どれほど彼を追い詰めていたのか、金さんは当時まったく気づいていませんでした。やがて息子さんは、7歳頃から人間関係に悩みはじめ、次第に精神的な不調を抱えるようになりました。

そしてついには、「死にたい」と口にするまでになってしまったのです。金さんはその原因を、学校環境や息子さん自身の問題だと思い込んでいました。

そんなある日、佐藤先生との面談が行われました。先生は穏やかな口調で、けれど、力強くこう言いました。


「息子さんは、お母さんに何かを言いたいんだね。2時間くらい、息子さんの話を聞いてみたらいいね。その間は、絶対に言葉を出しちゃだめだよ。彼の言うことをメモに書き留めて、一言も話さず、ただただ息子さんの話を聞くことに徹してね」


その言葉に戸惑いながらも、金さんは先生のアドバイスを信じ、息子さんと二人きりで向き合うことを決意しました。

最初、息子さんは「死にたい」とだけ繰り返し、何も話そうとはしませんでした。しかし、しばらくすると、少しずつ心を開きはじめ、これまで胸にためていた怒りや悲しみ、家族への思いを言葉にし始めたのです。


金さんは、その一言一言を胸に刻みながら、必死にメモを取り続けました。心の中では、「こんなに頑張ってきたのに、どうしてわかってくれないの?」という反発が湧いてきました。

それでも、先生の言葉を思い出しながら、最後まで一言も発せず、ただ息子さんの声に耳を傾け続けました。

2時間後、面談を終えた金さんは、怒りと疲労でいっぱいのまま帰宅しました。その怒りは翌朝まで続き、職場へ向かう足取りも重く感じられました。


ところがその日、思いがけないことが起こります。普段は苦手に感じていた同僚が、明るい笑顔で挨拶をしてくれたのです。

その一瞬、金さんの心に不思議なあたたかさが湧き上がり、自然な信頼が生まれました。その小さな出来事をきっかけに、金さんは気づきました。


息子さんがあの日吐き出した怒りや不満は、実は「愛しているからこそ、わかってほしい」「受け入れてほしい」という叫びだったのだと。


初めてその深い愛に触れたとき、金さんの目には涙が止まりませんでした。そこから金さんは、息子さんを心から信じることが出来るようになりました。

そして息子さんも、少しずつ自信を取り戻し、自ら社会に出て働き始めたのです。この体験を通して、金さんは「親子の絆」とは何かに気づくことができました。


それは、親が子どもを「正しい方向」へ導くことではなく、子どもが心の奥で何を感じ、何を伝えたいのかに、ただ耳を傾けることだったのです。


「こうあるべき」という思い込みが、どれほど大切な人を傷つけてしまうのかを、金さんは深く学んだのです。そして、こう実感しました。


「真の出会い」とは、相手の言葉の奥にある、言葉にならない感情や願いに触れること。表面的なやりとりではなく、心と心がまっすぐにつながる瞬間のことでした。


それは、相手と出会うと同時に、自分自身の本当の心と出会うことでもあります。金さんが息子さんと心を通わせたあの2時間こそ、互いの想いが響き合い、真実の愛が交わされた、かけがえのない「真の出会い」だったのです。

最後まで、お付き合いくださり、ありがとうございました。また、読みに来てくださいね。ステキな話しをご用意して、お待ちしております。

心の学校キャンパス・スタッフ 川村力雄